十煎目 のような香り

 茶の香りは、品種によっても茶期や生葉の熟度、製茶方法によっても大きく異なります。清々しい若葉の香りや青海苔様の香り、柑橘系や樹脂系などさまざまに表現されますが、製茶方法に萎凋という工程を加えることにより花や熟した果実様の香りが発揚することは良く知られています。

 この萎凋に長い間取り組んできた私が、つい最近ふと考えたことがあります。萎凋による香りの発揚メカニズムはチャが乾燥や紫外線、虫害といったストレスに呼応する植物としての防衛本能であることはすでに明らかにされていますが「なぜそれが花や熟した果実の香りなのか?」ということは探して見ても分かりませんでした。チャは生育条件がよければほとんど花を咲かせることがなく、したがって実も着けません。乾燥や養分不足に陥ると本来は葉になるために準備されていた芽が花芽へと分化し、開いた花は受粉し結実します。この一連のつながりは摘み取った生葉にストレスを与えると花香や果実香が発揚するのと同じではないかと考えると納得がいきます。残念ながらこれを実証する手段を持ち合わせてはいませんが好奇心が強くなるばかりです。

 日本茶の香りは画一的に評価されがちです。しかし「お茶のような」といわれることがないくらいに多様なのがお茶の香りだとすれば、個性的な香りがもっと評価されても良いのではないでしょうか?それは作り手としてのやりがいが増すことでもあるのです

  ※参考資料

      ・坂田完三 
        「たかがお茶、されどお茶」 茶の世界 Vol8 p11-14 お茶料理研究会編

      ・木下朋美 ・坂田完三
        「東方美人茶の香りの秘密」  香料  第229号(2006.3)別刷 p113-120