六煎目 茶は北方でも嘉木なり

 もちろん陸羽を茶化すつもりなどなく、ただ一面に広がる真っ白な茶園を見ていると亜熱帯植物のイメージは感じられないのです。埼玉県あたりでは毎年のように積雪があり、決して茶の栽培にとって有利ではありません。最近は暖冬傾向だといわれていますが雪の降る回数も減ることはないようです。

 10年ほど前のこと。その日は明け方から降り始めた雪が夕方には20cm近くまで積もっていました。私は前年の春に作ったばかりの遮光用の棚が心配で、四輪駆動の軽トラに乗り珍しく見回りに出かけました。心配していた棚は何の被害もなく一安心したのですが、気のせいか湿った重たい雪で茶園が沈んでいるような・・・我が家では冬に直掛け被覆をしているため、軽トラに積んであった熊手で必死に雪かきを始めました。雪の下は氷点下4℃ほどまでしか下がらず暖かいので、そのままにしておいたほうが良いと教えられてはいたものの、つぶれては元も子もないと暮れて行く空に焦りを感じながら作業を続けました。しばらくすると雪が雨に変わり、まるでスポンジが水を含んだように重くなって、さらに沈んで言った様子は今も忘れられません。

 「経済的北限」と呼ばれるこの台地が、それでも立派に産地でいられるのは厳しい環境に合わせた栽培方法の確立や、耐寒性の向上など品種改良の努力がされてきたからこそです。そこまでするのは茶が南も北もなく、魅力的な「嘉い木」だからなのでしょうね・・・