七煎目 お茶屋のドラマを2倍楽しむ

 

 栽培・製造・販売までを手がける自園自製自販の形態が中心になっている狭山茶の産地では、よく使われる「茶農家」という呼び方をすることはほとんどありません。それは「お茶屋」という言葉で表現され、栽培から販売まですべての工程にかかわることから仕事内容は多岐にわたります。

 すでにご覧の方も多いのではないかと思いますが4月15日からTBS系列において放映されている水曜劇場【夫婦道】は、お茶屋の家族におけるなんでもない日常を描いたホームドラマで、一昨年の同時期に放映されて好評だったことから続編が作られたものです。前作に引き続き舞台は埼玉県入間市のお茶屋「高鍋園」・・・主人公の高鍋康介(武田鉄矢さん)は特に手もみ茶にこだわりを持っているという設定で、お茶に関するシーンが頻繁に出てくることから今回も私がお手伝いをすることになりました(番組HPにもお茶道というコーナーがあります)。前作も今回もお茶シーズンに合わせて放映されるドラマでしたので、その時期に合わせた仕事を見せなければならないわけですが、これが意外に難しく・・・「お茶屋の仕事って?」「4月から6月という限定された期間の作業にどんなものがあるの?」栽培なら摘み取り、製枝、剪枝、肥料散布、防除、製茶のシーンだったら蒸し、揉捻、精揉あたりだったらお茶の葉を撮ることもできます。手もみ茶だったら蒸しから乾燥まですべて見せることができます。販売に関することだったら計量して袋詰め、店番に呈茶・・・指を折ればいくらでもあるような気がしますが、いざ「こんな日の朝にすることって?」とか「この時間にこの場所で大きな動きがほしい」などとなると選択肢はグッと狭くなってしまい「お茶屋の仕事ってバリエーションがないなぁ」と考え込む始末・・・テレビ局側はお茶についてできるだけ正確に伝えたいというスタンスでしたので、脚本家の先生とともに苦労があったのではないかと思います。もちろん、お茶について誰が関わっているのかタイトルバックを見れば一目瞭然ですので、私自身も大きなプレッシャーを感じていましたが・・・

 そうやって選りすぐられた(?)お茶屋の仕事。役者さんたちは経験があることもないことも、難しいセリフに合わせながらそれらしく、そして魅力的に演じてくれます。ドラマの中では毎朝が家族一緒にお茶を飲むことで始まります。夜は夫婦そろって「平和」と名の付いた手もみ茶を飲むことで終わります。雰囲気のある所作で手もみ茶を淹れる主人公は、こだわりの茶師を感じさせてくれます。お茶屋の仕事が絡んだ家族の日常を描くドラマは茶業者にとっては2倍も3倍も楽しめること請け合いです。さらに茶が人と人との間で潤滑油になったり緩衝材になったりする存在感は茶に関わるものにとって喜びを感じる瞬間です・・・。